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翌日。アシドら国家安全管理局の職員数人は、花の管理施設に来た。
アシド以外、来訪は初めてで、頑強な作りをした施設に驚いていた。
「花ひとつ管理するだけなのに、こんな大げさな施設なんですか」
「そうだ」
「それほど貴重な花ということでしょうか?」
「わからん。何もかもの情報が破棄されているんだ」
「いくら元は違う国のものだったからって、無責任ですよね」
「それは否めないが、今さら言っても仕方がない。とにかく、今日は施設の片付けだ。なるべく早く済ませよう」
アシドを先頭に、職員たちは施設に入る。まずは花を処分するため、管理室へと向かった。
管理室の扉を開けると、ひどく甘い香りがした。
嫌悪感は無かったが、その香りの強さに思わず顔を顰める。
「なんだ、このにおいは……」
「何のにおいなんですかね」
「あっ。アシドさん、あれを見てください」
職員が指差したガラスの向こうには、美しく咲き誇る花と、その前に座り込んでいる管理人のシイナがいた。
「何故、彼がここに?」
「わかりません。それに、花も咲いてる……」
「150年も凍らされてたのに咲いたのか?」
アシドは、花とシイナがいる部屋へ向かう。踏み込むと、においが更に強くなり、漂っている香りは花のものであると気付いた。
シイナは、ぼんやりと花を見つめている。目の焦点は合わず虚ろで、口は半開きの状態だった。
「おい、君。どうしたんだ?」
肩を掴んで揺さぶる。揺れに首が連動して、糸が切れかけているマリオネットのようにガクガクと揺れた。
シイナは、何も言わない。何も言わず、花を見つめ続けている。
更に呼び掛けようとしたところで、くらりと眩暈を感じた気がして、アシドは首を軽く振った。突然の感覚に、目頭を揉む。
その瞬間、鼻に意識が持っていかれた。
このにおいは……。
なんと芳しいのかと。
部屋に入り嗅いだ時には、強烈に鼻孔を刺激するそれに顔を歪めたにも関わらず、今は何故か恍惚とした気分が湧き上がってきていた。
ふと、シイナから花へと視線を移す。
そこに、花はなかった。
花があったはずの場所には、ひとりの女性が立っていた。
「なんと……」
アシドは驚いたが、それは花が無くなったことや、見知らぬ女性が突然目の前に現れたことに対しての感情ではなかった。
眼前に佇む美しさに目を奪われたアシドは、シイナや、様子を見に後ろから来ていた部下たちのことなど、どうでも良くなっていた。
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