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それからは、同じことの繰り返しだった。
アシドたちが戻らないことを不審に思い、別の職員たちが様子を見に来た。
その者たちも戻らず、通報を受け警官たちが駆けつけた。
さらに別の警官たち。軍人までもが投入された。
だが、誰ひとりとして戻ってきた者はいなかった。ひとり残らず、花の姿かたちと香りに魅了され、虜になり、その場から動けなく――否、動かなくなった。
しまいには、人数が増えたことで、争いが起き始めた。より花に近い場所を取り合うようになったのだ。
小競り合いから始まり、言い合いとなり、殴り合いに発展し、とうとう殺し合いにまでなった。
そうしている間にも施設に人は訪れ続け、花の虜は増えていった。
「――いったい、どうなっている!」
キョウは苛立ちを隠さず、机をダンッと拳で叩いた。
「元首さま、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるか! 花のせいで人が狂い、殺し合いにまで発展するなど、前代未聞だぞ」
「それはそうですが、今は対処法を考えませんと」
必死に宥めようとする側近の態度すら、癇に障る。ギリ、と音がしそうなほど歯噛みした。
「あの花の何が、そこまで人を狂わせているのだ」
「研究者が念のため防護服を着て向かい、調査を行ないました。どうやら、一番の原因は花の香りだそうです」
「花の香りだと?」
「はい。空中に漂う成分を調べた結果、どうやら強力な幻覚剤と同等の物質が香りに含まれていることが判明したと」
「なるほど、そういうことか」
側近の報告に納得の言を口にしたが、キョウの苛立ちは変わらない。
むしろ、空中に漂う幻覚剤という厄介なものに対し、どのように対処すればいいのか。新たな問題に頭を悩ませることとなり、胃のムカつきが増した。
「くそっ。こんな厄介なものだと知っていたなら、管理をやめるなんてことはしなかったのに」
「今後に活かしましょう。とりあえず、今は施設周辺の限られた場所だけが汚染されているだけに留まっていますが、今後、花の虜の人数が増えていけば、汚染状況に関係なく、内紛レベルにまで到達する可能性も考えられます」
「そんなことはわかっている。だから焦っているのだ」
イライラと爪を噛みながら、キョウは机の周りをウロウロと忙しなく歩く。
そこで、ふと、ある考えが浮かび指を口から離した。
「……花は、燃えるな」
「え? ええ、そうですね」
「ならば、燃やしてしまえばいいのだ」
「しかし、花に危害を加えると悟られた瞬間、虜たちに阻止されてしまいます」
「虜たちも、燃えるだろう? 人間なのだから」
側近は、その答えの意味が一瞬わからなかった。そして、理解した瞬間にザッと血の気が引いた。
にいぃ、と、キョウの口の端が上がる。目は笑っていない。
回答に上乗せされたその表情に戦慄し、喉が締まり、側近は制止の言葉も反論も言えなかった。
「花を燃やせ。施設ごと、虜になった者たちごと。遠くから、爆弾でも落とせば良い。我々は手を尽くした、これしか方法がなかったのだ。そうだな?」
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