真を写す

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毎日大きな駐車場に観光バスが溢れていた芝国ランドだが、お客様は年々減り続け、団体バスが十台程度しか来ない日も珍しくなくなった。 全国的に旅行客、特に団体客は減少の一途を辿り、北陸では有名な兼六園や東尋坊も加賀温泉郷も、最盛期の半分程度まで来客数は落ち込んだ。 更に、恐れていたもの。 天敵とも言える「カラーコピー」が一気に普及を始めた。 やっと団体旅行客の集合写真を撮っても、 「ああ、一枚だけちょうだい」と言われる様になった。 「これ後でみんなにカラーコピーして配るからな!」と、わざわざ彼等の目の前で得意気に言うお客様も多かった。 もちろん、そうなる事は会社側も予測していて、団体客より個人の旅行客をメインにシフトして行くが、そもそも旅行客自体がいなくてはどうしようもない。 業務の縮小とリストラをせざるを得なくなり、秋場は地元九州の支店へ副店長扱いで転勤を命じられる。 そんな状態で、遠く九州へ大切な人を連れては行けなかった。何より相手の両親が許さなかった。 九州へ転勤したものの、現場はどこも閑古鳥が鳴いている状態。 将来に不安を感じた秋場は、十三年目で観光写真の世界から去る決心をする。 現在も最上観光写真という会社は存在するが、彼が青春を過ごした北陸支店が撤退したのは、携帯電話にカメラが搭載されるより前だった。
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