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その夜。
"ぷでぃんぐ"を1つずつ分け合った話を、ぶぎょうねこは病床に伏せている男に説明していた。その男こそ、かの有名な"大岡越前守"こと大岡忠相である。将軍の信頼を得ている奉行も人であり、腹は減るし熱は出す。
"自分1人がこうなってしまい申し訳ない"と思いつつも忠相は"早く治して復帰せねば"という気持ちもあった。これからは1人で抱え込まず、人に頼る事を覚えねばと真面目な奉行であった。
「ぷでぃんぐは、ひとつずつわけることになりました。」
3つあるぷでぃんぐを1つずつ分け、一方的に1つを押し付けられたという結果までの道のりを、ぶぎょうねこは喜怒哀楽の読めない表情で淡々と話していく。
「そうか、よくやってくれた」
「ねこはなにもしてません」
"…だが、その町人2人は嬉しそうに帰って行ったのだろう?"と、少し楽になった体を起こして忠相は笑んだ。さすがの名奉行も、表情の分からないぶぎょうねこの心中を察する事はできない。
「だが、その2人は納得して帰っていたのだろう?…奉行の仕事は読んで字の如く"人の喜び"を作る事だ。お前さんがいて、話をする相手がいた事だけでも良かったのだ。」
"お前さんがいたからこそ、三方がそれぞれ一得する事ができたのだ"と、忠相は話を続ける。
「私はこの前、懐の1両を渡して"それぞれが1両損をした"という結果で納得をさせた。…しかし、お前さんは"それぞれが得をする"という結果で納得させた。考え方の事もあるがこの差は大きい。」
とどのつまりは"考え方"である。そういう非計算的な部分は、ぶぎょうねこにはまだ分からなかった。
「お前さんは、立派な奉行だよ」
忠相の笑った様子は、ぶぎょうねこにとっても嫌な結果には感じられなかった。体を起こしたままの忠相は、ぶぎょうねこの袴に括りつけられていた"ぷでぃんぐ"を包んでいた手ぬぐいをほどく。…そして、三方で分け合った1つを手に取った。
「なら、これは私が貰っておこう。お前さんの持っていたぷでぃんぐで私は得をした。人に良い事をするのが奉行の役目だから、お前さんはまた1つ奉行らしい事をしたという事を忘れないでくれ。」
ぶぎょうねこの心中を察せるものでは無いが、この"それぞれが得をした"という話は数日後に将軍である吉宗の耳に入る事となった。その話をいたく気に入った吉宗は、ぶぎょうねこを城に呼び出し褒美を取らす事とした。
「ねこはぶぎょうねこです、ほうびをうけとるねこではありません」
その謙虚な姿勢なのか真面目過ぎるのか分からない様子が、奉行としての地位を確立させたのはまた別の話である。
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