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「なのすけ、あたしが君の病気に気づけなくて死なせちゃったから、あたしずっと後悔してた。」
つぐみちゃんの腕の中からがばりと顔をあげた菜助は金色お目々をまん丸にして見上げます。
「ちがうにゃ、ちがうにゃ。つぐちゃんに会わなかったらお腹空いて寒くてとっくに死んでたんだにゃ!」
興奮する菜助の鼻先にちょん、と額をつけつぐみちゃんは、うん、でも、とつぶやきました。
「もっと生きたかったね。」
「幸せだったにゃ!まいにちがありがとうだったにゃ!いまだってありがとうだにゃ!」
額に、スンスンと鳴らす鼻先の湿っぽさを感じて、つぐみちゃんはほっとします。菜助と過ごした3年ちょっと。最後の5日間は後悔と絶望しかなかった。ただただ菜助に申し訳なくて自分が不甲斐なくて。許せなくて。やるせなくて。
「なのすけの夢、初めて。」
「知ってるにゃ。つぐちゃんはずぅっと自分を責めてたにゃあ。でももういいにゃん。ボクはつぐちゃんが大好きにゃん。」
「、、うん、なのすけ、ありがと。」
「ボクこそありがとにゃん!」
つぐちゃん、つぐちゃんがお布団においでおいでって招いてくれるの嬉しかったにゃん。グルグルとご機嫌の菜助の喉がなります。つぐみちゃんはグルグルの心地良さに瞼が重くなりました。夢なのに夢の中でも眠れるのか、と不思議に思いました。
「なのすけ、また会えるかな。」
「ずぅっとずうっと一緒だにゃん。」
短い折れ尻尾はピンと嬉しさでフルフル震えます。
「ふ、はは、ありがと。」
バタバタと院内に乱れた足音が響きます。
母さん!と手を取るスェット姿の兄に、若い医師はゆっくり首をふり、その傍らで看護師が繋がれた機械を粛々と外しました。また後で来ます、と医療スタッフは個室から出て行きます。
「っ、かぁさんはっ、、」
「た、たった、いま、」
廊下で医師とすれ違い、縋る思いでやってきた妹は、力なく座り込む兄を見て悟ります。ふらふらとベッドまで歩み、息をしていない母親を覗き込みました。
「、、兄さんが付いててくれたから、かな、母さん、穏やかな顔だわ。」
「いや、俺が来たときにはもう、もう意識もなくて、、ああ、でも」
横たわったまま何かを腕を抱きしめた母親の満ち足りた微笑みを見ていました。今日はずいぶん痛みが楽なんだな、とほっとしたんだと思い出します。
「意識はもう、無かった。けど、母さん、ありがとう、って言ったんだ。確かに、言った、んだ、っ、そのあと、急にっ、血圧が下がっ、、」
顔を覆う兄に妹が寄り添います。
「母さん、兄さんに感謝してたわ。ずっと付きそい大変だったの知ってる。ごめんね、あたしは自分のことばっかりで、、役に立てなかった。、、よかったね、兄さん。母さん、ありがとうって言ってくれたの。」
「っ、、」
泣き崩れる兄の肩をそっと妹は抱きました。独身だからと母親の介護を一手に引き受けていた五十歳間近の兄に妹は、ありがとう兄さん、あたしは本当に感謝してるの、とつぐみちゃんによく似た声で告げます。兄は、わかってるよ、と涙を拭い笑い返しました。
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