青い春

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青い春

「あれから一年過ぎて、もう卒業か」 中竹が原稿用紙を眺めて、ふと呟いた。 原稿用紙の傍には卒業証書の黒筒が置いてあった。 中竹は顔を上げ、天井を見る。 「ここに居るのも、このちゃぶ台に触れるのも今日で最後か…何か淋しいなぁ」 中竹はちゃぶ台を撫でた。 いつもと変わらない肌触りでとても気持ちがいいから嬉しいはずなのに、瞳から溢れる泪は別の感情を表していた。   「中竹!中竹!」 バンッとドアの開いた音と同時に聞こえた声に気付き、中竹はそっちを向いた。 そこには茶髪の安倍がいた。 彼も卒業証書を持っていた。 いつものカメラは首に下げたまま。 安部は息切れをしていて、とても息苦しそうだった。 中竹はその姿に驚き、戸惑いながら立ち上がらり、慌てて聞いてみる。 「どうしたん? そんなになるまで何……」 「お前に伝えたいことがある。今じゃなきゃ駄目なんだ」 安部は今まで以上の真剣な顔で中竹を見た。 それを見た中竹の顔も真剣になる。 安部は大きく深呼吸をして力強く言った。 「この後すぐ、俺は日本を出てアフリカに行く。少しでも早く世界の現状をカメラに納めたい。今すぐにでも自分の目で確かめたいんだ。」 今度は弱々しい声で言った。 「でも、俺の力だけじゃ足りない。誰かに支えてもらわなきゃ、俺はすぐに倒れてしまうと思う」 安部は頭を下げる。 「だから、お願い。俺の支えになってくれ。急で戸惑わせてしまったけど、お願いだ」 また安部は深呼吸して力強く言った。 「俺は、中竹のことが……明雄のことが好きなんだ!なのに、いつも悪口しか言えなくて……情けねぇよ」 だんだん声が弱くなっていく。 その代わりにだんだん手を握り締める力が強くなっていく。 中竹の心がドクンと音を立てた。 そして、温かいものが中竹を包み込んだ。 中竹は天使のように微笑む。 「安倍、顔を上げてくれや。そんなの前から気付いてたんに決まっとるやん!」 安倍が顔を上げると、中竹が胸に飛び込んできた。 その後、中竹は続けて言う。 「遅いわアホ! ずっと待ってたんやで! 俺は、安倍のことが…真志のことがずっと好きだったんやから」 中竹は泣きながら続けて言った。 「俺も冷たく返すことしか出来んくて……情けないな」 中竹は安倍をギュッとした。 安倍も中竹をギュッと抱きしめる。  結局、入賞したのは中竹だった。 でも、安倍に抱いてほしいとお願いした。 部室で制服を着たまま、愛しあったのだ。 くだらなくて、青臭くて、何気ないやり取りをしながら。  「俺は君のためなら何でもする。俺がしっかり支えてあげるから。だから、大事にしてね。自分も、私も」 「うん。大事にするよ。約束する」 2人は指切りをした。 お互いを確かめ合うように。 「俺、勉強せなあかんから遠距離になるけど。離すつもりないからな」 ニヤッと笑った中竹は今度は唇にキスをする。 安倍は戸惑いながらも受け止めた。  「さぁ、写真撮影に行くよ。早く行かなきゃ終わってまうわ」 「しょうがねぇなぁ」 安倍は中竹と一緒に走り出した。 二人とも向日葵のように笑っていた。  空は青く、木々は緑色。太陽はさんさんと輝き、影は悠々と伸びている。 蝉も風も音を立てて遊んでいる。 開け放たれたままの部室に光や音が入り込む。 天井には紐が通されていてその所々に写真が吊るされている。 地についたちゃぶ台には風でひらひらと動く原稿用紙がある。 周りの壁には今までの賞状が貼ってある。 ふと、本棚と作業机との間に花瓶を置くような低い棚を見つけた。 そこには 原稿用紙を枕にしてかわいい顔で寝ている少女の写真が入った写真立て、マスにぎっしりと文字が書かれた原稿用紙。 そして、茶色の板に黄金色に輝く王冠の形をしたものが付いていて「最優秀賞」と刻まれた盾、最優秀賞と書かれた縦長の賞状が置いてあった。      おわり
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