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「おかえり、千歌ちゃん」
家に帰ると、今夜も希海がいた。
しかしわたしの後ろから入ってきた松浦さんを見て、思いっきり顔をしかめる。
「どうぞ、松浦さん。入ってください」
「お邪魔します」
コンビニの袋をぶら下げながら、松浦さんは希海の体をすり抜けていく。
やっぱり松浦さんに希海の姿は見えていないのだ。
「そのへん座っててください。いまグラス用意するので」
「ああ、悪いね」
松浦さんがテーブルの上にビールやおつまみを広げている。
わたしはキッチンに立ちグラスを用意する。
そのそばに、希海が近づいてきた。
「誰だよ、あいつ」
わたしは無視して、部屋に向かう。
「無視すんなよ。千歌! 誰なんだよ、あいつ!」
希海がイライラした態度でついてくる。
わかるでしょう? 察してよ。
一人暮らしの女が男を部屋に呼ぶっていうのは、そういう関係ってこと。
わたしはいつまでも希海が知っている、お隣のお姉さんじゃないんだよ。
「松浦さん、飲みましょう」
わたしは缶ビールを開ける。プッシュっと泡が噴きでてくる。
「おい、千歌!」
希海の手がわたしの肩をつかもうとする。
だけどその手はわたしの体を、むなしくすり抜けるだけだ。
希海は自分の手を見つめ、「ちっ」と舌打ちをした。
わたしはさらに無視して、松浦さんのグラスにビールを注ぐ。
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