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「なんか嬉しいな。榎本さんとは一度こんなふうに、ゆっくり話してみたかったんだ」 「わたしもです」 「じゃあとりあえず、乾杯でもしようか」 「はい」  ふたりでグラスを上げた、そのときだった。  ビュッとなにかが飛んできて、松浦さんのグラスが吹っ飛んだ。  ガシャン。派手な音を立ててグラスが割れる。  床には散らばったガラスの破片と、テーブルの上にあったはずのスマホが落ちていた。 「え?」  呆然としたわたしの耳に「うわぁっ!」という悲鳴が聞こえた。  見ると松浦さんに向かって、枕やクッションが次々浮かんでぶつかってくる。  天井の電気は、チカチカと不気味に点滅している。 「ま、松浦さん!」  手を伸ばした瞬間、わたしにもクッションが投げつけられた。  これ、希海のしわざ? 希海は物に触れられないはず。  でもホラー映画でこういうの、見たことある。  ポルターガイストってやつだ。 「な、なんだよ、これ!」  松浦さんがあわてて逃げだす。部屋の電気がプツンっと消える。 「だ、大丈夫ですか!」 「大丈夫なわけないだろ? なんだよこの部屋! 幽霊でもいるのか?」  幽霊……わたしは暗くなった部屋をぐるりと見まわす。  しかしそこに希海の姿は見えない。 「悪いけど、帰るよ。こんな気持ち悪い部屋にはいられない」 「ま、松浦さんっ」  引き止める私に振り向きもせず、松浦さんはさっさと部屋を出ていく。  バタンと重いドアが閉まったあと、わたしは部屋に向かって口を開いた。
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