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「最後に千歌ちゃんと、出かけられてよかった」
希海がそう言って桜を見上げる。わたしはそんな希海の横顔を見つめる。
「本当はこれから何十年も、千歌ちゃんと東京の街を歩く予定だったけど」
希海がわたしに視線を移し、目を細める。
わたしは手のひらの花びらを、ぎゅっと握ってつぶやく。
「また……会おうよ」
生まれ変わって、もう一度。わたしは必ず、あなたを見つける。
するとわたしの手がふわっとあたたかくなり、希海の声が聞こえた。
「うん。また会おう」
手に伝わってくる、わずかなぬくもり。
わたしたちはいま、桜の木の下で、お互いの手を握りあっていた。
「そのときはもう一度、プロポーズするから」
希海の声にわたしは答える。
「楽しみに、待ってる」
わたしの前で希海が笑った。
わたしも希海に心からの笑顔を見せる。
ぬくもりがゆっくりと消えはじめた。
そっと広げた手のひらから、桜の花びらが零れ落ち、風に乗って飛んでいく。
わたしはその行方を見送りながら、高い空を見上げた。
――結婚しようよ、千歌ちゃん。
嘘じゃない本当の返事を、わたしはいま口にする。
「うん。いいよ」
わたしの声が、桜色の空に消えていった。
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