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「ひっ……」  思わず後ずさりしてしまったわたしの前で、希海が自分の手のひらをじっと見つめた。 「やっぱり無理か……触れるのは」  あきらめたようにほんの少し口元をゆるめ、希海はつぶやく。 「おれ、死んだんだろ?」  わたしは胸元をぎゅっと握りしめる。希海はハハッと、他人事のように笑う。 「駅に向かって歩いてる途中、雪でスリップした車が突っ込んできたんだってな。地元で見てきたよ、自分の葬式。けど両親も友だちも、誰もおれの存在に気づいてくれない。ちゃんとここにいるのにさ。一か月近く、おれもガチでパニクってた」  そう言ってちょっと寂しそうな顔をしたあと、希海はずいっとわたしに近寄る。 「でも落ち着いたら、思い出したんだ。たしか千歌ちゃんは、霊感強かったよなって。ほら、子どものころよく言ってたじゃん。『わたしにはオバケが見える。希海のそばにオバケがいる』って。だから、『そうだ、東京行こう!』って決心して……」 「えっ、ちょっと待って。あれ嘘だから」  つい口を挟んだら、希海が思いっきり「はぁ?」と顔をしかめた。 「だってあんたが怖がるの、おもしろかったんだもん。だから脅かしてやろうって思って……わたしほんとうは、オバケなんか見たことないよ」 「おいっ! なんだよ、それ! 十年以上信じてたおれ、バカみたいじゃん!」  叫んだあと、希海はいったん口を閉じ、それからおそるおそるつぶやいた。
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