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「千歌ちゃん、遅いよ。どこ行ってたんだよ」
今夜もマンションに帰ると、希海が駆け寄ってくる。
まるでペットのワンコみたいに。
「会社で残業」
「は? また? 残業多すぎ。やっぱり千歌ちゃんの会社って、ブラックだよな」
わたしは鍵をいつもの場所に置き、希海を見上げる。
希海の幽霊は、わたし以外のひとには見えなくて、手でなにかに触れることはできないらしい。
それでも電車に乗ったりはできるから(もちろんタダ乗り)わたしが仕事に出かけている間、希海はあちこち出歩いていた。
スカイツリー、浅草寺、上野動物園。
今日は足を延ばして、千葉にあるテーマパークまで行ってきたと言う。
「ほんとうは千歌ちゃんと行きたかったよ。ひとりじゃやっぱつまんねぇし。せめてお土産買ってきてあげたかったんだけど、おれ金持ってなかった」
「どうぞお気遣いなく」
わたしは買ってきたコンビニ弁当を食べながらつぶやく。
希海は目の前に座って、にこにこ顔でわたしを見ている。
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