家族の舟板

2/5
前へ
/5ページ
次へ
 お願い、パパ、あたしを見捨てないで!  大声で叫んでみた。そしたら、 「お……お前なんか……お前なんか、もう娘じゃない!」  いままで見たことのない怖い、本当に鬼のような顔をして、どなりつけられた。  あ……。  瑞希は気力を失った。手から力が抜けた。  その一瞬の隙をついて、パパが乱暴に瑞希の手をひきはがした。  きゃっ。  瑞希はとうとう舟から離れてしまった。  助けて。捨てないで。あたしを乗せていって。  泳げない瑞希は、あっぷあっぷしながら手をのばす。 「そこっ……その板につかまるんだ、瑞希っ」  そんな叫び声が聞こえたのと同時に、もがいた手に、硬いものが触れた。  板だ。  小さな板。  瑞希はしがみついた。  幅は数十センチ、長さは一メートルあるかないかの小さな板で、瑞希ひとりを支えるのもやっとだが、ともかく水に沈まないでいられた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加