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チムサーチョイへ着いた船は再び、中環へと向かう。
私は一旦降りて、チケットを買い中環に戻ることにした。彼がいなかったら、Heartsに行って、これを届けよう。
そう思って、SKYの帽子を手に六分間、ドキドキしながら中環の船着き場の方を眺めていた。そこには彼の姿は見えなかった。店に行こうと歩き出した時、後ろから駆けて来る音がした。
振り向くと、SKYがいる。
彼は息を切らして私の前まで来ると、
泣きそうに笑った。
「…良かった、会えた」
「…うん」
私はなんだか胸がいっぱいになってしまって、
持っていたキャップを彼に渡した。
「ありがとう。
ごめん、この為に戻ってくれたんだよな…?」
申し訳なさそうに謝るSKYに私は首を横に振った。
「その帽子って、誰かからのプレゼント…?」
彼はちょっと驚いたように目を見開いて、
ああ、と頷く。
「もしかして、お父さん、とか?」
「ああ。おふくろにこれだけ残して
日本に帰ったらしい」
「帽子の裏を見て」
SKYは怪訝そうにキャップの裏を見て、布きれに気がつき、それを引き出して読むと驚いたように私を見た。
「それ、住所に見える」
「ああ、住所だ…日本の」
そう言って、SKYは何も言わなくなった。
目が潤んでいたから、感激しているのだろうと思って何も言わなかった。
「お父さん、いつかSKYが大人になって
それを被る時、気がついて欲しくて、
自分の居場所、書き残していたんじゃないかな」
SKYは何も言わずに帽子を見つめている。
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