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部屋の中は衣装部屋の様だった。
大きな鏡がいくつもあって、メイク道具やらが乱雑に広げられ、傍のくすんだ紫色のソファで一人の小柄で眼鏡で黒いタンクトップにパンツ姿の若者がだらしなくお腹をかきながらいびきをかいて寝ていた。下のフロアから爆音が聞こえているのによく眠れるなぁと思ったら、続いて窓から入って来たSKYが彼の鼻を摘まんだ。でも、彼は眠ったまま。
「たぶん、こいつ何してもいつも起きないから。髪乾かして着替えて来な。着てみたい服、好きなの着ていいから。用意できたら降りてきて。上にいる」
SKYは雨に濡れたシャツを脱ぎ始めた。
「上?」
「屋上。今年の夏から、ルーフトップになったんだ。最高の景色が見られる。着替えたら、早くおいで」
そう言って、SKYはシャツを脱ぎ捨て、頭から夜の闇みたいな黒いTシャツを着た。その様をぼんやり眺めていたら目が合ってしまって慌てて逸らしたら、私の頭にふわっとタオルがかかった。
タオルから目を覗かせると、彼はおかしそうに笑みを浮かべていた。そして足元にあった黒いスポーツバッグを肩にかけると出て行った。トントンとリズミカルに上がって行く音が遠ざかる。
とりあえず、借りていたキャップを脱ぐ。
毛先から滴る雫にタオルを押し当てた。
ふんわりとしたタオル地から刺激の強い南国の花を嗅いだ時の様な濃い薫りがした。使っている洗剤なのか、彼の匂いなのか、好きな匂いだと思った。異国の地で彼は生きているんだ、と唐突に思った。今、ここに自分がいてこんな場所に来ていることが不思議で新鮮で、そして心細くなる。
早く、行こう、彼のところに。
毛先がかなり濡れてしまっていたから、鏡台の前にあったドライヤーを借りて乾かし、キャップも乾かした。周りを見渡すと、ハンガーに吊るされたステージ衣装と思われる様な色鮮やかなスーツやドレスが並んでいて、下には大量の靴箱に様々な靴やヒールが並んでいた。チャイナドレスなんかもあって、興味をそそられた。
鏡に向き直って最後に乾いた髪を直す。
酷い顔なのに、頬は赤みをさしている。
目はやっぱり赤い。さっきまで泣いた顔だ。
でもダンスフロアは暗闇、どうせ見えないよね。
私はついでに服も乾かして、さっき気になったワインレッドのチャイナドレスを着てみた。
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