Hearts

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部屋のドアを開けると、そこは踊り場で上下にあがる階段しかなかった。足元は淡いブルーの間接照明だけ。心ともない気持ちのまま階段を上がりきり、扉を開けた。 外に出ると、目の前に飛び込んで来たのは煌びやかなクラブシーンだった。 雨を避ける巨大な硝子張りの天井の下で踊り狂う国際色豊かな人種の人々。そしてダンスフロアの中心で音楽を奏でるSKY。そうっと人波を避けながら彼の方へと進んで行ったら、SKYは目を閉じてプレイしていた。手元は器用に機材に触れていた。こんなアレンジ聞いた事がない。凄い。クラブミュージックに精通しているわけでもなく、日本でクラブ通いをしている訳でもない私だったけれど、彼の技巧はすごいとわかった。暫く圧倒されて彼の横に立ち、その両腕から紡ぎ出される音に魅入っていた。 男女が身体を寄せ合い、時に離れ、手を翳し、フロア全体が彼の創り出す音に気持ちよさげに身を委ねている。 気がついたら泣いていた。 ここに一晩いたら、寂しくない、そう思えた。 「君が今夜のVIP?」 振り向くと、さっき部屋で寝ていたと思っていたタンクトップの若者が躍っていた。下を見ると、ちゃんと半ズボンを履いていたからホッとした。 「えっと」 「珍しいな、日本人、連れて来るなんて。君、名前は?」 「…」 「あ、警戒する?当然だよね。俺、SKYのルームメイトのヒロ。名前なんていいや、とにかく楽しもうぜ、ベイビー!」 彼はやけに高いテンションでそう捲し立てるとやって来たバーテンから七色をしたカクテルを二つ取り上げた。 「俺と君の出逢いに」 渡されたカクテルに、勝手にカチンと合わせた彼はそれをグイっと飲み干した。私も勢いに合わせて飲み干したらそのアルコールの強さに頭がくらりとした。ヒロにカクテルグラスを取り上げられてフロアの真ん中に押し出された。急に音楽が変わった。 驚いて前を見ると、真正面でSKYが私を見て、 親指を立てて笑っていた。 新しく始まったビートはダンサブルで、ヒロは腰を大げさに振り躍り出した。凄く楽しそうに。それを呆気に取られてみていたら、同じように踊り出した観光客らしき女性が寄ってきて耳打ちされた。 「貴女も踊りなさいよ。 楽しまなきゃ、何もかも忘れて」 彼女は雄たけびをあげながらヒロに声をかけると、 二人は調子に乗って向かい合い、激しく踊り始めた。 何もかも忘れて、か。 そう、私、その為に来たんだ。 楽しもう! そう思って、私もリズムに乗って身体を動かした。
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