クリームソーダとホットココアによる午後の饗宴

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 アイスを失ってしまったクリームソーダに、存在する意味はあるのだろうか。  藍沢(あいざわ)は、もはや緑色すぎる液体としか呼称できなくなってしまったそれをストローの先で軽く掻き回す。  数種類のプレートランチが主に女性層に人気を博しているこのカフェ・ダイニングにおいて、そんな少年の姿は少なからず人の目を引いた。客といえば女性か、またはカップルかの二者択一と言っても過言ではない店内に、高校生男子がひとりきりで、しかもクリームソーダとにらめっこをしている姿は、主に女子高生グループを中心に話題をさらっている。  いささか不機嫌そうな表情に加え、明るい色の髪と少しきつい目つきが近寄りがたさを助長しているが、それを差し引いても興味をひかれるくらいに藍沢の顔立ちは整っていた。本人は注目されていることに気付いていないのか、または注目されることに慣れきっているのか、相変わらず黙々と氷をいじり続けている。ようやくそれが飲み物に対する態度ではないと思い至ったのか、唐突にストローを放り出すと、今度は軽く頬杖をついて窓の外を眺めはじめた。  暖冬という言葉をいたる所で耳にするのも納得できてしまうほど、今年は雪が少ない。カフェに面した通りを歩く人たちの足取りも軽快だ。クリスマスを数日前に終え、大晦日を数日後に控える慌ただしい時期だということも多少は影響しているのかもしれない。そんな風に考えて、それなら一体自分はなぜ今こんなところにいるのだろうかと、藍沢が眉をひそめた、その時。
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