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「大体、何でこんなとこで待ち合わせなんだよ。女ばっかりじゃねぇか」
やはり多少は周囲の状況というものを気にしていたらしい。穂積が現れたことで輪をかけて色めき立った店内の雰囲気を肌で感じ、藍沢はうんざりする。
穂積は迅速に注文を取りに来たウェイトレスにホットココアと言って返し、そんな藍沢ににっこりと笑い掛けた。
「ここがおいしいと聞いたから、かな」
「何が」
「クリームソーダ」
自分の前に置いてある緑の飲料を顎の先で指され、藍沢は更に嫌な気持ちになる。行動パターンを見透かされていると思うと、途端に落ち着かなくなった。視線をさまよわせて憮然とする藍沢を楽しそうに見つめると、穂積は左手で頬杖をつき、右手の指先でテーブルを軽く叩いた。
「クリームソーダのアイスだけ食べたいなら最初から素直にバニラアイスを頼めばいいと思うんだけど、藍沢はアイスとメロンソーダが混ざった部分が好きなんだろうと思ったからそこにはあえて突っ込まないでおく」
「うっせー」
「だから、きっとこうなるんじゃないかと思って」
細くて長い指が緑のグラスにかかり、そのままさらわれていく様子を、藍沢は無言で見送った。一緒に連れ去られたストローが穂積の口元へと移動したことで、ようやくその意図を理解する。
「何やってんだか」
「うん、やっぱりちょっと違うな。いかにも着色料入ってますよって感じじゃないから、これなら飲める」
そう言って、ストローをくわえたまま上目遣いで笑う穂積を見て、藍沢は大きく息を吐き出す。
「結局お前が飲むんじゃねぇか」
「リラちゃんはメロンソーダはお嫌いでしょう? クリームソーダじゃなくなった途端に気持ちが冷めるなんて全く酷い話だよな。俺も飽きられないように頑張らないと」
「やめろ、頼むから余計なことはするな頑張るな。でもってリラ言うな」
超合金の金槌で完膚無きまでに釘をさすと、藍沢は溜め息をついて窓のほうへと顔を向ける。ガラスに映り込んだ元クリームソーダの量がみるみるうちに減っていく様子を見つめているうちに、藍沢は自分が何故かほっとしていることに気付いた。
アイスを失ったクリームソーダにも、ちゃんと存在する意味はあったのか。
そんなことを真剣に考えていることがおかしくて、藍沢は思わず頬を緩める。と、その瞬間、ガラス越しに穂積と目が合った。藍沢が何を考えているのかなど全部お見通しだと言わんばかりの笑顔に、向上した気分が一気に下降する。
不機嫌極まりない顔を窓ガラスから背け、勢い良くソファに背をもたせかけると、視界の隅で短いスカートがふわりと揺れた。顔を上げてみれば、そこには満面の笑みを浮かべたウェイトレスが、いままさに穂積の前に白いティーカップを置こうとしている場面だった。だが、穂積は人当たりの良いよそ行きの笑顔でそれを制すと、藍沢のほうへ置くようにとウェイトレスに告げる。そのことに驚いているのはどうやら藍沢ひとりだけのようで、接客のプロはその微笑みを絶やすことなくスマートに任務を終えて立ち去っていった。
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