【第6章】片山葉という男

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周囲から好奇の目に晒されて頭を抱えていると、流星君が気を利かせて静かに歩み寄ってきて。 「葉さん行きましょう。社長、失礼していいですか?」 前半は俺に、後半は社長に伝えると、社長は穏やかに微笑んだまま小さく頷いてアリーに向かい、ここで騒がれては困るという趣旨の英語を話すとアリーは不満な表情を浮かべながらも大人げなかったと反省してくれたようで。 「お騒がせしてすみませんでした。し、失礼します」 社長に頭を下げて騒がせたことを謝罪しながら立ち去ると、後方で『葉! また後でねぇ~!』と騒動をものともしないアリーの声が聞こえてくるが無視だ無視。 早歩きで自分のオフィスに向かう最中、流星君のもの言いたげな視線に俺はどう言い訳、というかなんと言えばいいのかモヤモヤとしてしまい。 「一応聞きます。どのようなご関係で?」 直球に聞くことにしたらしい。流星君としては珍しい行動だと思いつつも、俺は乱れたスーツを正しながらゲンナリしつつ事実だけを淡々と伝えた。 「あんな大企業のCEOになってるなんて知らなかったんだ」 「アレクサンドラ=モルガンって言ったら有名じゃないですか。日本の大学に留学中、アメリカにカフェを経営して、倒産したフランチャイズカフェの空き店舗買い取って一気に営業展開に成功した美しき若き女傑。去年、世界の長者番付のそこそこ(・・・・)に入ってましたよ」 といっても四桁番台ですし黒澤財閥には全然及びませんけど、と流星君にしては珍しくマウントをとるような発言をする。 「カフェやりたいって飛び出してったけど、個人経営だと思ってたんだよ……」 「大学の同期ってことですか?」 核心を突いてくる流星君に、俺は口をへの字に曲げてしまう。足を止めて深くため息を漏らすと、流星君も立ち止まってジッとみつめてきて。その視線にいたたまれず、額に手のひらを当てて渋々白状した。 「……俺の大学時代に付き合っていた元カノ」 「元カノ……まさかのプラチナブロンド美女」 意外です、という流星君の無表情はかなり氷点下だった。
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