【第1章】西城縁という女

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「……俺の分もあんの?」 「ん? いらないの?」 お腹減ってない? と冷蔵庫を覗き見ながら続ける彼女の後ろ姿から視線を逸らして。 「あ、いや……もらう。サンキュ」 「あーい」 そういってこちらに背を向けたまま、鼻歌交じりに朝食の準備を始めた彼女を後目に、俺は深いため息を吐いた。 彼女と会話していると、どうも調子が狂うために現状把握に時間がかかってしまったけれど、彼女に気付かれないよう部屋を見渡す。 彼女の部屋はとてもシンプルだった。 淡い水色のカーテンに、自分達が寝ていたパイプベッド。二人で寝ていてよくも耐えたと思う。主に俺の体重に。 クローゼットらしき扉も見受けられるが、きっちりと閉まっていて中は見れない。先ほど彼女が父親の服を取りに行った場所は、たぶん脱衣所兼洗面所。 風呂場もその奥にあるようだが、あまり広くないようだ。 自分はベッドの前にある、黄緑色のラグの上に鎮座中。目の前には実用性があるのかわからない木目調の小さなローテーブル。さっと見渡す限りでは1LDKといったところだが、それにしても少しだけ広く、そして説明した以外の物が本当にない。 テレビもなければ、ファッション雑誌なんかも見当たらない。家にいるときはどんな生活をしているんだと尋ねたくなる。 彼女の性格――というか表面上の付き合いでしかないが、もっと小物や雑貨なんかがごちゃごちゃしているイメージだ。豹柄とかゼブラ柄といった動物柄を好み、健康サンダルを愛用しているヤンチャなタイプだと思っていたため、随分とイメージが違う。 まぁ、話し方には眉を潜める部分はあるもののよくよく考えれば彼女もそれなりにいい年で、自分のイメージが若すぎるのだろうかと改めたものの。 「できたぬーん」 気の抜けた話し方で自分の元にやってきた彼女の手には、大きなおにぎりが四つほど並んだお皿。 慌てて腰を浮かせば「座ってていいよんっ」と相変わらずの口調で俺の行動を止めさせる。 そこから何度かキッチンとこちらを往復し、飾り気のないマグに入ったインスタントのわかめスープと小皿、割り箸を並べてなぜか俺の真横に座ってきた。 「たべよー。お腹すいたぁ~」 「ちょ、おま。なんで隣……」 「いいじゃんいいじゃん。家主よ私。いっただっきまーす」
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