【第1章】西城縁という女

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無言のままぺろりと三つのおにぎりを完食した俺は、わかめスープを流し込みながら出そうなゲップを抑えつつ。 「……これさ」 「うん?」 「中身、手作り?」 「あ、うん。そーだよ。アサリは冷凍だけど、煮るだけだからチョー簡単」 「うまいな」 「ホント? わーい、褒められた。ありがと!」 ようやくおにぎりを完食した彼女が素直に喜びを表現するのを見て、なんとなく自分がピリピリしていたのが馬鹿らしく思えてくる。 たぶん、きっと、間抜けな顔をしていたと思う。 眉をハの字にして彼女の笑顔を見つめ、思っていた事がポロリと漏れた。 「お前……いいな」 「え? なにが?」 「素直に人の褒め言葉を受け止められるとこ」 「……え?」 「普通、謙遜するだろ? 悪くはないんだが、素直に受け止められるのも褒め立場としては気持ちがいいな」 零した言葉に、彼女は一瞬呆けた表情を浮かべたもものの、すぐにへにゃっとした笑顔を見せて。 「私も、片山さんのそーいうとこ、いいと思う」 「は?」 思わず聞き返すも、彼女は誤魔化すようにニャハッと笑って。 「ごちそう様?」 「あ、ああ。うまかった、ごちそうさん。ありがとな」 「ふふ~んっ。おそまつさまでしたぁ。ところで片山さん」 「あん?」 「そろそろ乾燥機が終わりそうなんだけど、ちょっと今から私とデートしてくんない?」 「…………お前何言ってんの?」 前言撤回、こいつやっぱりイラッとする。  ◇◆◇ 食事の後片付けはなんとかさせてもらえた。 さすがに世話になりっぱなしで、何もしないというのは気が引けるためだが、彼女は結構あっさりと「じゃーお願い」と譲ってくれた。 彼女の人を茶化すような態度は相変わらず嫌いだが、俺が申し訳ないと思っている部分をすくいあげて、ちゃんと役割を与えてくれるところは非常にありがたい。しかし、せっかくの休日を嫌いな奴とデートなんてする気はこれっぽっちも起こらなかったのだが、ゲロまみれの話を持ち出されて頷くしかなかった。 脅しの材料を与えた俺が悪いのだが、腑に落ちん。
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