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俺が思っていた洗濯は、どうやら乾燥機まで備わっていたらしく、ようやく戻ってきた自分の服に袖を通して落ち着いた。ゲロまみれになったとは思えないほどきれいになっていたのは、確かに感謝せざるを得ない。ちなみに借りていた彼女の父親のモノらしい服は若干伸びてた。
ホント、申し訳ない。
伸びきったTシャツを猫背で見つめていたらしい俺に対し、彼女が指を差して笑うもんだからイラッとする。
彼女も脱衣所で横文字ロゴ入りの白いTシャツと細身のダメージジーンズに着替え、準備万端となった時にようやく俺は行き先を尋ねた。
「で? どこ行くんだ?」
「んとねー、宝石さがしかなぁ?」
「は? お前まさか、世話した礼にクソたけぇもん買えって言ってんのか?」
「まさかぁ~。そこまでひじょーしきじゃないよぉ」
「非常識の自覚あんのな」
「え~? あ、そーいえば片山さん聞いた?」
会話しながらようやく彼女のアパートを出ると、そこはバイト先からそれほど離れていない場所だと気付く。周囲に知り合いがいないか挙動不審になりながら歩くが、彼女はまったく気にする様子もなく俺の腕に自分の腕を絡めてくる。
「おい、何すんだよ」
思わず腕を振りほどいたが、彼女は「ケチィ」と少し膨れ面をして反対の腕に絡みついてくる。
やめろ、と何度か振りほどくものの、しつこすぎる彼女との攻防にさすがに面倒になって、彼女の好きにさせることにする。
腕を絡ませてくることによって、押し付けられてくる柔らかなふくらみに気を取られぬように、だが。
「で? 何を知ってる? って?」
「え? 何の話だっけ?」
「お前が、俺に何か知ってるか、って聞いてきたんだよ」
俺と腕を組むことができたという状況に満足した彼女は、自分が切り出した話題を忘れてしまっていたらしい。しばらく「んー?」と考えながら歩き、それからようやく思い出したように俺を見上げながら話題を提供しだした。
「うちのバイト先の親会社? が、新しいカフェのフランチャイズ作るんだってー」
「あー……なんかニュースでやってたな」
そういえば、と彼女の話題に関連するニュースを見た気がする。
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