【第1章】西城縁という女

15/20
前へ
/305ページ
次へ
うちのファミリーレストランは元を辿れば日本屈指の財閥――黒澤財閥の傘下にあるグループの一つ、TAKAMOTOグループが展開するフランチャイズである。 様々な分野のグループが傘下にある中で、衣食を担っているのがTAKAMOTOグループだ。 うちのファミリーレストランは基本的に洋食が中心であるが、それ以外にも和食中心だったり中華中心だったりと、それぞれの分野に別れたファミリーレストランを展開している。 高級志向の料亭もチェーン展開しているとあって、なかなかの儲かりようである。 そして、そのTAKAMOTOグループが新しいチェーン店を展開するという発表が数か月前にあった。 元々若者向けのカフェチェーンはすでに存在しており、今回はアメリカ発祥の少しだけリッチなカフェが、TAKAMOTOグループと提携契約を行い、日本に初上陸する事となった。 詳しい話は知らないが、彼女が持ち出したものは多分その話だろうと推測される。 「なんかね、ここの近所らしくて。うちの系列のレストランってこの近場に何件かあるの。そこから新しいカフェの店員ひっこぬくーって話が出てるらしいよぉ。うちらのとこからも、引き抜きあるかもーってバイトの子話してた」 寝耳に水の話に俺は呆けた表情を浮かべたと思う。準社員の俺よりバイトが先にその情報を知っているという状況にも戸惑いを隠せない。そんな俺の動揺に気が付いたのか、彼女は俺を見上げて続けるように告げた。 「その子の親戚? がたまたま新しいカフェつくるプロジェクト的なものに関わってるらしいから、正式な話じゃないみたい。どうなるかわからないけど、かもねーって」 「……そう、か」 「まぁ、従業員全員を正社員にするって話もでてるっぽい」 その話に、自分の心臓が跳ね上がったのが理解できた。 けれど現状を思い返し、ふぅっと深く息を吐くと、冷静さを取り戻しながら自嘲する。 自分に少しでもそのチャンスがあれば、と夢みたいなことを考えたものの、自分がヘッドハンティングされるとは到底思えない。
/305ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加