【第1章】西城縁という女

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結局その隙のないコミュニケーション方法が功をそうした場合もあれば、大失敗した場合もあり、それが彼女の評価を両極端に分けてしまうきっかけになった。 そして何より彼女を嫌う理由の最たるが、店長との対立にある。 フランチャイズチェーン店とはいえ、俺が働いている店は本店直営である。店長は本社社員で、表向きはこの店に出向しているという事になっているが、噂によれば左遷されてこの店にやってきた、という経緯があるらしい。 前店長が居た時は和気藹々とした、穏やかで協調性のある店だったのだが、前店長が結婚を機に田舎へ引っ越すことになり、その代わりで今の店長に就任してからは店の雰囲気がガラリと変わってしまった。 左遷の理由は不明だが、店長の態度はその理由をしっかりと物語ってくれているほど最悪だ。 昨日指示していた事が今日になって様変わりしていることなど序の口で、店長の気分によって毎日対応が変わる。自分より上の立場になるエリアマネージャーが様子を見に来たときは、大猫を被って媚びへつらうものの、自分達が少しでも店長の態度に苦言を零せば、エリアマネージャーが帰った後で烈火のごとく怒り狂う。店の備品を投げつけて脅すなんてことも徐々に増えてきた。 そのたびに買い直さなければいけないのに、自分が壊したものの経費を出し渋る。 忙しい時間帯にふらりとやってきては、客に出す料理に手を付け、作り直さなければいけない羽目になるなんて事も一度や二度ではない。 せめて食事したいのであれば、まかない飯は福利厚生の範疇だ。客の料理とは別に頼めば、ちゃんとまかないが出てくるのに、なぜかその手順を面倒臭がる。 そしてなにより自分が一番正しく、一番偉いという態度をあからさまに押し出してくる。 気に食わない相手には唾を飛ばして怒鳴る。とにかく怒鳴る。フロアに客が居ようが、居まいが怒鳴りまくる。それを聞いた客からクレームが来た事もあったのだが、頭を下げるのはバイトや自分達であって、怒鳴る店長ではない。 店長を出せと言われたら、なぜか俺が店長の名札を付け替えさせられ、表に出させられる。 客に頭を下げ続け、土下座をしたことだってあるくらいだ。 とにかく客にとって、俺が部下を怒鳴りちらす店長という認識が少しならずかあり、徐々に売り上げにも影響し始めている。
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