【第1章】西城縁という女

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答えられなかった俺も俺だが、あれほど気を使っている相手にこうもたやすく喧嘩を売られるのは本当に困っているのだ。 あれだけ店長を怒らせておいて、店にいられるのだから神経が図太い。 俺のように気を遣う立場の人間は、そういう意味で彼女を嫌っているし、彼女を好きな人間は彼女に庇われた立場の人間だ。そのエピソード以外にも彼女の空気を読まないネタは腐るほどあるものの、語り始めると愚痴と暴言が止まらなくなりそうなので割愛させてもらう。 ――さて、ここでどうして彼女を嫌っている俺が彼女のエピソードを語っているのか、ようやく本題に入るわけなのだが。  ◇◆◇ 自分でも把握できていない部分はあるが、理解できている部分だけで説明しよう。 それは視界に飛び込んできた情報のみをお伝えするに至るのだが。 ――朝起きたら、見知らぬ部屋で自分と彼女が下着姿で寝ていたんだが。 ……よし、誰か理解できただろうか? 何を言っているのかわからないと思うが、俺も何を言っているのかが本当にわからない。 本当に。 自分に至っては上半身裸で、下半身はトランクス一枚しか身に付けていないという痴態である。そんな自分の足の間に、自分が嫌っているはずの女性が、自分の腹を枕にうつぶせ状態ですぅすぅと寝息を立てている。 いくら嫌いだとはいえ、相手は女性で異性だ。 そしてなにより自分はブ男で、彼女はそこそこ美人である。 ここで自分の容姿を伝えるならば、百キロを目前に控えたデブであるということだ。身長が平均男性より少し高めなだけまだマシではあるが、そんじょそこらにイケメンが簡単に落ちていると思ったら大間違いである。 見た目はそれほど悪くはないと言われたが、太っている事で残念になっていると言われたことはある。太っているというより大柄だとフォローしてくれる人もいれば、アメフト選手のようだと言ってくれる人もいる。残念ながら、俺はアメフトではなくラガーマンだ。飲み会目的の同好会程度ではあるが。
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