【第1章】西城縁という女

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女であるとかそんな事も考える間もなく、思わず彼女の脳天をスパーンッと勢いよく叩いたのは許されてもいいと思うんだ。 男として、下半身が反応しそうになった事を誤魔化すためなのだから……仕方ない。  ◇◆◇ 「うぅ……おなかぁ……」 「お前のその、俺の腹に対する執着心なんなの?」 「……あれみたいなの……ストレス解消の……ムニムニするやつ」 「俺はストレスリリーサーかよ」 あれだ、ムニムニと手のひらで握ってストレス解消するグッズ。 分からん奴はあれだ。ググれ。 「雑貨店で買ってこい!」 「片山さんのお腹が売ってないぃ~……」 丁度いい柔らかさなのに……と叩かれた頭をさすりながら、涙目になっている彼女。 「俺は非売品だ」 「うぅ……まさかの展示用……」 「展示もしてねぇわ!」 俺が展示してある雑貨屋あったらコエェわ! ようやく眠気から覚醒した彼女から聞いた、今までのいきさつを頭のなかで整理する。 昨日は確かに彼女が言った通り、店長の機嫌がすこぶる悪く、自分はもちろんの事、珍しく彼女も口をはさめないほど周囲に当たり散らしていた。俺としては昨日が十連勤最後の日で、次の日から久々の二連休。 へとへとになりながらも店長の機嫌を伺っていた。 それから、十連勤および店長からの解放感でコンビニで酒を買ったのも忘れていない。道々歩きながら飲んでいたのも覚えているが、何しろ無茶なシフトを自分で組み込んでいたこともあって、寝不足だったのも否めない。疲労+寝不足+酒ともなれば当然自分は唐突な睡魔に襲われたらしい。 しかも自分の記憶がないうちだったため、防ぎようがない――というより酒を飲まないという選択肢を先に選択できればよかったのだが、どうしても口にしたかったのだからご愛嬌とさせてもらいたい。 とにかく、自分は道端で寝ていたらしく、寝入った直後に彼女がたまたま通りかかって声かけてくれたのだが。 「ひどいぃ……ゲロまみれになりながら介抱したのにぃ……」 「……あー……それに関しては、すまん……じゃない。ごめん、なさい……」 お互いが下着だったのはそういう理由だったらしい。 ちなみに俺のゲロまみれの服は、俺のゲロで汚れた彼女の服と一緒に洗濯機の中で踊っているらしい。
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