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【第1章】西城縁という女
西條縁という女は、誰から見ても不思議な女だ。
空気が読めず場違いな発言を繰り出し、人を不愉快にさせるのも上手ければ、ホンワカとした雰囲気で人を和ませるのも得意である。
相反する状況を繰り出すことができるため、彼女に対する周囲の評価は綺麗に二分する。
あんな空気も読めない、人を平気で傷つけるような女は嫌いだと声を大にして言う者と、一緒にいるとなんだか不思議と気持ちが優しくなれるから好きだと恥ずかしげもなく告げる者である。
かく言う俺は前者の人間であり、彼女の空気の読めなさに対する一番の被害者だといっていい。
有名なフランチャイズチェーンのファミリーレストランで準社員として働いている俺――片山葉にとって、西條縁は働くレストランの後輩であり部下でもある。まぁ、準社員の俺とただのバイトである彼女にはそこそこ大きな溝があるはずなのだが、彼女はそれをモノともしない。
三十歳の俺と二十八歳の彼女は一番年が近い。他のバイトは明らかに大学生や高校生ばかりで、パートに至っては、そこそこ子育てが落ち着いたであろうご婦人方が多い。バイトとしては彼女がとびぬけて年齢が高いものの、かといってバイトを始めたのは二か月ほど前のため、働いている中では一番後輩である。
が、彼女は如何せん、空気が読めないのは言わずもがなだ。
準社員でバイトとパートを束ねるリーダーを任されている自分に、初対面からタメ口で接してきた時は驚いた。
少なくとも彼女の年齢であれば社会経験が多少あってもいいはずなのだが、今まで注意された事がほとんどないという。周りの人たちは何をやっていたんだと思うと同時に、甘やかされてきたのかと憤る。
初対面から彼女を叱ったのも仕方がないにしても、一応反省してみせ、敬語を出来るだけ使うよう心掛けているようではあるが、気を抜くと時々敬語が取れて対等な扱いをされるのが気にくわない。
多感な学生達が同じ態度を取られてイラつく者もいれば、自分よりはるかに年上の後輩にどういう態度で接したらよいのかと考えるのも仕方がない。
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