2.白紙のカルテ

1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

2.白紙のカルテ

 翌日の昼過ぎ。  午前診が終わり、十二時から十六時までのお昼休憩中、クリニックの電話は自動的に留守番電話に切り替わる。  その直前にかかってきた電話に出た渡辺さんは、小声で「はい、はい」と答えながらの怪訝な表情だった。何かを思い出そうとしているかのように、視線が宙を彷徨っている。  二、三分話したあと、彼女は「かけなおします」と言って受話器を置き、パソコンのキーボードを叩いた。カルテは紙だが、受診歴だけはパソコンに記録が残っており、すぐに調べることができる。  渡辺さんは私を手招きし、「五年前に受診ラストの斉藤さんという方が亡くなったみたいで――」と言った。 「覚えている人ですか?」 「それが、記憶にないんですよね。よく覚えてないなあ――今の電話、警察からだったんですけど、当時の病状を知りたいらしいので、カルテを探してきてもらえませんか。私、先生に報告してきますので」  看護師は所謂ドーナツ勤務で、十二時から十六時は本当なら勤務時間外。でも私は特に用事もないので、カルテ探しを引き受けて、カルテ庫へと向かった。  でも、私はその患者のカルテを見つけることができなかった。  ――代わりに、昨日見つけたほかにも、白紙のカルテを何冊か見つけた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!