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3.不思議な偶然?
「不思議なこともあるもんだな」
院長が言う。「本当に、全員、亡くなっているのか?」
「全員かどうかは解りません。亡くなった人もいますし、行方不明の方もいますし」
渡辺が言った。
白紙のカルテとそれ以外のカルテ、それらをパソコンの受診歴を照らし合わせ、ざっと調べてみたところ、パソコン上には名前があるが、カルテが残っていないという患者が、何人か出てきた。
そしてその全員と連絡が取れなかった。
事故や自殺で亡くなった人の他は、行方不明の人だった。
「不思議な偶然ですね」と私が言う。
すると院長が、「あながち、偶然ではないのかも」と言い出した。
「精神科のカルテには、その人の知られたくない秘密が残っていることもあるからな。仮に全員が亡くなっているとしたら、この世から旅立つとき、立つ鳥跡を濁さずで、身ぎれいで逝きたかったのかもなあ」
そうかもしれませんねと渡辺は腑に落ちない表情で言った。
私には、得体の知れない違和感が続いていたが、そんなこともあるのかもしれないと思うと、その違和感の正体に説明がつくような気がした。
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