プロローグ

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プロローグ

大学院2年生の春。急遽母校の高校の吹奏楽部の指導にボランティアで行くことになった。吹奏楽部の男子部員は、僕が所属していた頃よりも随分人数が増え、賑わっていた。 各パートごとに練習させ、全員で合わせたのに、うまくまとまらない。そういう時、あの人たちがよく使っていた言葉がある。 「呼吸を揃えてみよう!」 不思議と当時の声が聴こえた気がした。そのアドバイス通りやってみると、だんだんとみんなの音が綺麗に合わさっていき、懐かしい響きが完成してゆく。あの人たちに聴かせたかったな。 ——帰り道。気がつくと学校の裏庭にある大きな桜の木の前に来ていた。懐かしい光景が昨日のことのように目に浮かぶ。あの頃本当に楽しかったなぁ。当たり前の日常がずっと続くと思っていた。この桜の木の下で卒業証書の入った筒を掲げて、夢に向かって頑張ろうと誓った次の日から僕たちはバラバラの運命を辿ってしまった。 「またこの桜の木に集まろう」と交わした約束はもう果たせない。1年前の事故で彼女を亡くしてしまったから。なぜ僕だけが生き残ってしまったのだろう。生きている意味ってなんなのだろう。そんなことを毎日考えるようになっていた。
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