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国民の命を、マリエッタが背負っているのも同然なのだろう。
何がなんでも、召喚の儀式を成功させないといけない。
マリエッタは決意と共に、一歩、一歩と前に進んでいく。
祭壇の周辺には、召喚に使う魔法陣が描かれていた。
王妃となる花嫁は、そこで召喚魔法を使って国を守護する聖獣を呼ぶ。
そのため花束の代わりに、婚礼衣装に魔法使いの杖を持って結婚式に挑むのだ。
両手に握るのは、白銀の杖。先端には、大粒のルビーがあしらわれていた。
歴代の王妃が、聖獣召喚のさいに使った伝統の杖である。
魔法陣にたどり着いたマリエッタは、静寂の中で召喚の呪文を読み上げた。
緊張で、ガタガタと震えている。
凜としていなければ。
マリエッタは祖国を代表して、魔法陣の上に立っているのだ。
大きく息を吸い込んで、はく。
大丈夫、大丈夫と何度も言い聞かせた。
箒のように柄の長い杖で、魔法陣の中心を叩く。
それは、儀式開始を合図するものだった。
「――求めよ、求めよ、求めよ、さすれば、汝は求めるものを、受け取るだろう。叩け、叩け、叩け、さすれば、叩いた門が、汝の為に開かれるだろう」
マリエッタの美しい声で紡がれる呪文に、参列者はほうとため息をつく。
聖獣よ、現れてくれ。
マリエッタは縋るような気持ちで、呪文を唱えていた。
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