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理由
小林裕貴はスポーツ万能、成績優秀……らしい。
サッカー部に入っているだけあっていつも太陽の匂いのする男だった。
そして何だか馴れ馴れしい奴で陸が双子だと分かったとたん、兄である海にまで何かと声をかけてくる。
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『待っててやるからさ、一緒に行こうぜ?』
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裕貴の言葉を思い出し、海は顔を赤らめた。
【何で僕にまで構うのかな……。変な奴】
そうなふうにウザったく思いながらもほんのちょっぴり差し伸べられた手を勿体なく思う自分が何処かに居た。
何故そのように思うのかはそれ以上詮索はしない。してはいけない気がしていた。
「お待たせ。行きましょうか?」
「はい」
「あら……。海、顔赤いけど大丈夫?熱……無いわよねぇ」
母親が海の顔を覗き込む。
「うん。大丈夫」
母親の運転する車でいつも通り学校へ向かうと前を歩く陸と裕貴を見つけた。
楽しそうにじゃれ合っている2人。海はそんな2人に目を向けた。
「やぁねぇ、陸ったら。あの調子で間に合うのかしら」
2人に近付くと母親がパッパーとパッシングをし、2人がビックリして振り返った。気付かれないように海は顔を動かさずに目線だけで2人を追う。
「あ、家の車だ」
「え、何で?」
「海が乗ってるんだよ」
それを聞いて裕貴は目を丸くした。
「話が見えないな。何で海だけ?どうしてだ?」
興味津々に聞く裕貴を陸は振り返って見た。
「何で?どうしてだ?って。……そんなに海の事気になる?」
「気になるっていうか……。なんで"別行動"なのかなぁって思って。お前の兄弟の事だろ?何だか知っておきたくてさ」
学年の違う兄弟、もしくは学校の違う兄弟ならありかもしれないが、流石に双子で同じ学校に通っているのに別行動は謎である。裕貴が尋ねるのも一理あった。
ハァと溜息をついて陸は話し始めた。
「俺達見ての通り双子なんだけど、産まれた時に海にだけ心臓に疾患があってずっと入院してたんだよ」
「心臓に……疾患?」
「うん。言っとくけど俺が海の分の栄養奪ったわけじゃねーから。……この話すると必ず言われるんだぁ」
「……了解」
まさかの展開に裕貴は陸を見るが陸は真っ直ぐ前を見つめたまま話を続けた。
「で、中学の時に大手術。それが何とか成功してやっと俺達一緒に住めるようになったんだけど、産まれてからそれまで密閉された環境に居たせいか海のヤツ、人付き合いがてんでダメでさぁ……」
陸の話を聞きながら裕貴は海を思い浮かべた。
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