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1年後
「お見合い……ですか?」
「先方のお嬢さんが小林くんの事を見初められてなぁ。是非にと。写真も……ほら。綺麗なお嬢さんだろう?どうかね、君もそろそろ家庭を持ってもいい歳だし……考えてみないか?」
裕貴は部長から差し出された見合い写真を見るとそれを閉じ、部長に返した。
「綺麗な方ですね。でもすみません。俺、もう心に決めている人が居るので……」
「そ……そうか、もう既に居るのか。残念だ。実に、残念。いい話だと思ったんだが」
「すみません。では俺、急いでるんで失礼します」
裕貴はそう言うと上着を着てデスクから鞄を手に持った。
「小林先輩、今日飲みに行きませんか?この間、カラオケ行ったM大の女の子達とー……」
「悪い。急いでるんだ」
裕貴は申し訳なさそうにオフィスを出た。
「えー!「裕貴先輩連れて来い」って言われてるのにぃ。やべぇどうしよう」
「今日12日だろ?ダメダメ」
山岸はデスクからオフィスチェアに乗って移動してくると後輩にそう言う。
「何で……ですかぁ?」
「裕貴の"彼女"の月命日なんだよ。昨年心臓の病で亡くなられたみたいでな。その日からアイツにとって毎月12日はデートの日」
「デート?」
「墓参りの日……なのさ」
後輩はそれを聞き、無言になる。
「俺でよかったら代打で行こうか?」
「いえ、大丈夫です」
山岸はズコッとコケる。
裕貴はエレベーターを降りるとたまたま取引先の社長に出くわした。
「あ、いつもお世話になっております。……今日は?」
「いや何、近くまで来たものだから。小林くん、今から1杯どうかね?」
裕貴は「これは長くなりそうだ」と頭を搔く。
「申し訳ありません。俺はまだ別件の仕事が残っていますので……。あ、そうだ。山岸なら空いてると思われます」
【たしか今度こそ決めるって言ってた彼女と最近別れたばかりだって言ってたよな?先輩、ごめんっ】
「山岸くんの連絡先は聞いていたかなぁ?」
そう言う社長に裕貴は心の中で山岸に謝りながら、自分の上着の内ポケットから名刺ケースを出す。
「今、山岸の携帯をお教えしますので……」
その中から自分の名刺を1枚取り出した。その時ヒラヒラッと何かが落ちる。
「……ん?」
1枚の紙切れ。
裕貴はそれを拾い上げると上着のポケットへ突っ込んで、名刺に山岸の仕事の携帯番号を書き込んで社長に手渡した。
「こちらに電話してやって下さい。多分OKですよ」
「そうするか。次は小林くんも付き合ってくれよ?」
「えぇ、是非お供させて頂きます」
社長に一礼をしてエントランスを飛び出した。そして駐車場へ向かい車に乗り込む。
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