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静と動 光と影
サラサラの黒髪に眼鏡。いつ見ても誰かと居るわけではなく、1人きりで本を読んでいた。
陸と違って大人しく、体育の時間も木陰で見学している姿をよく目にしていた。「何で?」って疑問には思ってはいたけれどーーー
【心臓に疾患……そうかそのせいで】
陸の話を聞いて裕貴はやっと海の事を少し知った気がした。
自分に向けられる海の態度は何だかいつも冷たかった。冷たいというか反応が薄い。それなのにたまに感じる海の強い視線ーーー
【あれは一体何なのか……】
「……って、聞いてる?人の話」
「あぁ、聞いといてぼーっとしてて悪い」
「もう海の話は終わりっ」
そう言ってスタスタと先を行く陸を裕貴は追いかけた。まだいろいろ聞きたい事がある。
「何で車なのかだけでも教えろよ」
「手術……。成功したって言ったけどまだ完全ではないんだ。今でも発作はたまに起こるし爆弾抱えてるようなものだから心臓に負担掛けないようにアイツだけ親の"送迎付き"なわけ」
「なる……ほど」
【でも海はそれでいいのか?学校の行き帰りに友達とくっちゃべったり……そういう時間ってとても楽しい筈なのに】
「もういい?」
「え?」
「海の話ばっかり。……つまんない」
ぷぅぅっと膨れて拗ねる陸は裕貴の腕を引っ張って建物と建物の間の路地裏に裕貴を連れ込んだ。
「悪かったよ。ごめん」
「もう海の事ばっか聞かない?」
「聞かないよ」
「……ならキス1回で許すぅ」
そう言って目を閉じる陸の唇に裕貴は周りを気にしながらチュッと唇を重ねた。今では2人はこういう関係。
きっかけは陸の告白からだった。
一卵性というのもあるが、陸がほんの少しくせっ毛で前髪の1部がピョコンと跳ねているのと海が眼鏡をしているせいでかろうじて見分けられるくらい2人の外見は似ていた。
しかし知れば知るほど全然違う2人の性格。
弟の陸は気さくで皆の人気者。いつも人の輪の中心にいるようなどちらかというと"動"。そんな陸に裕貴も正直惹かれた。
そして後から知った兄の海の存在。
海は大人しくいつも図書室で本を読んでるような真面目タイプで"静"。
【似てるのは顔だけで、まるで光と影のような兄弟……なんだよなぁ】
そして今、気になるのは海だった。
陸は放っておいてもこんな感じだけれど、海は触れると今にも壊れそうなほど繊細に感じた。
____________
体育の時間、陸のクラスはチーム分けをしてグラウンドでサッカーをしていた。
「陸っ、パス」
陸は相手をかわして逆サイドに走り込んできた裕貴にロングパスをした。
「裕貴っ、シュート!」
裕貴が思い切りボールを蹴りあげた。相手のゴールキーパーをかわし、ゴールのコーナーギリギリの場所にザッと網に吸い込まれるボール。
「ゴール」と言って裕貴と陸が手でハイタッチをした。ふと裕貴が校舎の方を見る。
「どうしたぁ?」
「いや……何でもない」
誰かに見られているような熱い視線ーーー
「ほら、行くぞ」と裕貴の肩を叩くと陸は走って行く。
「お……おお」
裕貴がゲームに戻った時、窓にふと顔を出す者が居た。海だった。
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