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「なんでって貴方。
いきなりうちの宅間にお茶をかけたりするからですよ」
思いだしているのかまた、若旦那があははっ、なんて笑う。
それを見て宅間さんがぎょっとした顔をした。
さっきから彼は若旦那が声を出して笑うたびに驚いているが、そんなに珍しいんだろうか。
「宅間はこのように、自分より下だと思った相手にはかなり……少し、態度が大きいのです」
なんでもないように言い直してきたけれど、若旦那はかなり、歯に衣着せぬ方らしい。
「痛い目を見ればいいのに、と思っていたら、貴方がやってくれました」
若旦那は綺麗ににっこりと口角を上げたけれど、もう心の声がダダ漏れになっている。
「こんな痛快な思いをしたのははじめてです。
だからお嬢さん。
私の妻におなりなさい」
いくら妻になれと言われても、そんな理由ではい、そうですか、なんて言えるはずがない。
だいたい、あれはもうすでに、私にとって忘れ去りたい過去になっているのに。
「え、えーっと。
ちょっとそれは……」
相手は大店の若旦那。
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