第1章 私の妻におなりなさい

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お茶をかけたのだっていまになれば冷や汗ものなのに、さらになにか気に障ることを言ったりしたくない。 まあ、この様子だと彼はそれを笑い飛ばしそうだけど。 「お付き合いしていらっしゃる方がいるのですか」 「い、いないですね」 いたら諦めてくれたのか! と三ヶ月前、シロネコ宅配便のお兄さんを振ったのを後悔した。 「それとも、心に決めた方がいる、とか」 「そ、それも、……いない、です」 幼きあの日、憧れだった近所のお兄さんは先月、結婚した。 とはいえ、ただの憧れだったんだけど。 「じゃあ、なんの問題もないです」 御曹司が満足げに頷く。 ないどころか問題だらけじゃー! なんて叫ばなかった私は偉い。 偉いからあとで、コンビニスイーツを買ってあげよう。 「あ、あの。 私、仕事があって」 これは正直な気持ちだ。 父の工房に間借りという形とはいえ、自分の工房を春に立ち上げた。 まだまだ手探り段階ではじまったばかりなのだ。 なのに辞めてこいとか言われたらお断りだ。
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