第1章 私の妻におなりなさい

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それに私の意思を尊重してくれるのならば、結婚は諦めてくれるはず。 「ああ。 続けてもらってけっこうですよ」 「なら、結婚は……」 ……諦めてくれるんだ。 なんて、ほっとしたのは一瞬だった。 だって、若旦那の答えは私の予想の斜め上をいくものだったから。 「私が東京と金沢、二重生活をします。 店に立つ日は東京。 休みの日は金沢。 東京から金沢まで新幹線で一本、二時間半もあれば着きますからね、可能です。 それにリモートワークもできますから」 さらりと言ってのけ、茶碗に残っていた最後のひとくちを飲む。 ……詰んだな。 若旦那の辞書には諦めるという字がないらしい。 かくなるうえははっきりと、結婚したくないと言うしかないのか。 「そんなに私と結婚するのは嫌ですか」 茶碗を座卓へ戻し、若旦那が姿勢を正す。 レンズの向こうからは真っ直ぐに澄んだ瞳が見ていて、私の姿勢も伸びた。 「嫌です」 「理由を訊いても?」
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