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「仕事を続けたいから……は、もう理由にならないのはわかりました。
でも私は、あなたという人間を知りません。
三橋さんもそうでしょう?
私のすべてを知っているわけじゃない。
こんな状態で結婚したって、上手くいくとは思えません」
「……ふむ」
軽く握った拳を顎に添え、若旦那は何事か考え込んでいる。
宅間さんはもう諦めの境地に入っているのか、黙って座っていた。
父にいたってはようやく状況を理解したもののどうしていいのかわからないらしく、おろおろと成り行きを見守っている。
「じゃあ、こうしましょう。
三ヶ月……だときりが悪いので……」
指折り、御曹司が月を数える。
「今年いっぱい。
今年いっぱい、私とお試しでお付き合いしましょう。
それで大晦日に返事を聞かせてください」
それならあり、か?
遠距離だし、二重生活の厳しい現実もわかって諦めてくれるかもしれない。
「それなら大丈夫です」
うんうん、いい展開になってきた、なんて喜んだ次の瞬間、御曹司の口からできた言葉でそこにいた一同がまた固まった。
「式は来年の春です。
桜の下で、なんてロマンチックでしょう?」
「……は?」
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