第1章 私の妻におなりなさい

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若旦那はそれで決定だという口ぶりだけど、まずはお試し交際から、じゃないのか? それで断るかもしれないのに? 「帰ったらその日程で話を詰めておきます。 私は絶対に、貴方を妻にしますから」 自信満々に若旦那が笑い、私の口からははぁーっと重いため息が落ちていった。 結局、うちと三橋呉服店手の取り引きの話はまた今度、ということで若旦那たちは帰っていった。 「……鹿乃子(かのこ)。 結婚、するのか」 あれのどこでそうなるのかわからないが、父はがっくりと肩を落としている。 祖父と祖母は今日、協会の旅行でいなくてよかった。 いまだに孫が可愛くて仕方ない祖父などあの場にいたら、若旦那を恫喝しかねない。 「まだしないよ。 だって仕事、はじめたばかりだし」 「でもな……」 父としてはもしかしたら、仕事を辞めさせるいい機会だと思っているのかもしれない。 私が工房を立ち上げたとき、反対されたから。 大学卒業後は一般企業に就職しろと父に強く勧められた。 絶対に跡を継ごうなどと考えるな、と。
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