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「もっと着物が普及するように頑張る!
それに私には祖父ちゃんのようなセンスも、父さんのような高い技術も無理だって知ってる。
それでも、どんな形でもいいから、有坂染色を残したい」
祖父は私の絵を見て将来有望な跡取りなんて喜んでいたが、美術の成績はいつも地を這っていた。
手先だってお世辞にも器用ではない。
でも家庭科、特に裁縫が壊滅的だった友人は、下手は下手なりになんとかなると、そんな成績が嘘のようなコスプレ衣装を作っている。
なら、私だって頑張ればなんとかなるはず。
「……わかった」
ずっと黙って私たちの言いあいを見ていた祖父が唐突に口を開き、ふたりとも祖父の顔を見ていた。
「鹿乃子の好きにさせてやれ。
鹿乃子ひとりの食い扶持くらい、俺が稼いでやる」
「親父!」
父が抗議の声を上げる。
けれど祖父はよっこいしょと腰を上げ、これで話は終わりだとばかりに邪険に手を振って茶の間を出ていった。
「……はぁーっ」
父は口から重いため息を落とし、上げかけた腰を下ろした。
「じぃさんがああ言うから認めてやる」
「やった!」
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