第1章 私の妻におなりなさい

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これで、手放しで喜んでいいわけじゃないのはわかっている。 それでも許可が下りて上機嫌になった。 「でも、俺の跡は継がせない」 しかし父は、すぐに私の気持ちをへし折ってくる。 「なんで!?」 「こんな借金だらけの工房、継いだところでしょうがないだろうが」 「……」 売り上げは右肩下がりで、経営が苦しいのは知っていた。 だから後継者として若い職人を雇えないのも。 「お前はお前のやりたいことをやれ。 そして経営者の苦しみを味わえ」 しっしっしっ、なんて意地悪く笑っている父は、それが本音……だとは思いたくない。 それから約二年。 会社勤めをしながら準備を整え、この春に私は自分の工房を開いた。 だから相手が誰であろうと結婚なんてまだまだ先の話だし、それにここを離れるわけにはいかない。
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