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三橋呉服店といえば銀座の一等地に店をかまえ、政財界や芸能界に多数の顧客を抱えている。
絶賛、斜陽産業の呉服業界において、長者番付に載るなど異彩を放っていた。
この業界にいて知らない方が珍しい、呉服屋なのだ。
「ふーん。
……あ、私がお茶、持っていくよ」
母の手からお盆を奪う。
いつもはお茶出しなどめんどくさがるが、その若旦那がどんな人なのか俄然、興味が出てきた。
「じゃあ、お願い」
「はーい」
興味津々に応接室へと向かう。
まさか、これがあんな結果になるなんて知りもしないで。
「失礼します」
開けたドアの向こうには、父とふたりの男が向かいあっていた。
……おっ、イケメン。
なんて心の声は顔に出さず、お茶を置く。
奥側の若い……といっても一昨年まで勤めていた会社の、中堅課長くらいの年の方がきっと、件の若旦那なのだろう。
この暑いのにきっちり首元までネクタイを締め、さすがにジャケットは羽織っていないがベスト姿だ。
なのに汗ひとつ掻くことなく涼やかな顔で座っている。
その顔には銀縁スクエアの眼鏡が光っていた。
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