第1章 私の妻におなりなさい

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なんとなくそれと相まって、冷たい印象を与える。 あと、私と同じくらい長い髪をひとつ括りにしているのが印象的。 「これはとても、名誉なことなんですよ。 わかりますよね、それくらい」 手前に座る、父と同じくらいの年の男が横柄な口をきく。 こちらは仕立てのよさそうなワイシャツを着ていたがノータイで、さらに外したボタンから下シャツが覗いていてだらしない印象を与えた。 ……なに、こいつ。 上から目線の男にカチンときたが、相手は客だ。 努めて冷静にお茶を置いた。 「はぁ……。 わかるんですが、しかし……」 ほとほと困り果てている父を見て、だいたいの事情を察した。 きっと三橋へ商品を卸せ、と言っているのだろう。 しかしうちは職人ふたりの小さな工房なのだ。 できる量はたかがしれているし、それも昔から懇意にしている問屋に卸している。 新規取り引きなど、無理に等しい。 「なにがご不満なんですか。 この、三橋が取り扱って差し上げると言っているんですよ? こんな、吹けば飛ぶような工房ごときの作品を」
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