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はん、と男が小馬鹿にしたように笑った瞬間、私の忍耐が切れた。
気づいたときには私の手が、男のあたまの上で茶碗を逆さにしていた。
「すみませんね、うちの工房ごときの作品を、三橋ごときに卸すわけにはいきませんので」
はん、と男を真似て笑ってやり、腕組みをして思いっきり見下ろした。
父も祖父も名声というものに関心がなく、品評会へ出品したりしないので賞こそ獲ったことはないが、祖父はこの業界で師匠と慕われるほどの技術とセンスの持ち主なのだ。
なのに、ごときなどと軽く扱われ、黙っていられるわけがない。
「き、き、貴様!
なにを!」
顔を真っ赤にして男が勢いよく立ち上がる。
受けて立つ、とばかりに少し上方にある男の顔を睨みつけた。
「これだから下賤の人間は!」
「あんたが上流階級の人間だとでも……」
「あはっ、はははっ、ははっ、ははははっ」
唐突にその場にふさわしくない、笑い声が響いた。不覚にも男と見合わせてしまった顔を、笑い声の主へ向ける。
「あはははっ、もー、最高ですね」
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