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■吾妻柊護・アガツマシュウゴ
先ほどまでの出来事がまるで悪夢のようだ。
「柊護、つばさのこと頼めるか?」
父の呼び声にハッと我に返る。玄関先で振り返る父の先に、切り取られた四角い外の風景は、もうすっかり墨色をしていた。
少しだけ遠くに赤い光が禍々しく揺れ、生涯で、何度も味わいたくない色だと思った。
僕達も一緒に行く、と懇願するが、病み上がりの妹を連れ出すのは、と父が渋った。
「おにいちゃん、行かないで」
震えながら妹は僕の腕にしがみつく。安心させるように抱きしめるが、それはたぶん自分もきっと震えていたのを、必死に隠そうとしていたからかもしれない。
望月さま https://estar.jp/users/560063686
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「うん。わかった」
納得は行かなかったが、乾いた口からようやく出た言葉だった。
父は「あとで連絡する」と言うと、帰宅した身体は、早々にまたすぐに出て行ってしまった。
しん、と。静寂が部屋を押しつぶした。
点けっぱなしになっているテレビの音が虚しく響く。
先ほどまで、三人の青い服を着た、救急隊員と母がいた。
緊急を告げる声に、妹はただ怯え、部屋の隅で茫然としていた。
事の次第を救急隊員に説明をしようにも、目撃者である妹が要領の得ない返答で到底会話にはならなかった。
タイミングよく帰ってきてくれた父が、救急隊員の質疑応答を引き受けてくれた。
そしてまた早々に家を出ていった。
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