■吾妻柊護・アガツマシュウゴ

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***  ほんの数十分前の出来事だ。  僕が学校から帰ってきたら、母が意識もなく台所で倒れていたのだ。  妹は泣き叫びながら母の身体を揺すっている。  一瞬のことに、頭は真っ白になる。  夕食の準備中だったのだろう。  ビーフシチューの匂いが部屋にたちこめている。  学校のカバンもその場に放り出して、慌てて駆け寄り、呼びかけても、母は何も答えてくれなかった。  触れた頬はまだ温かい。  泣き叫ぶ妹に事情を聴くよりも、とにかく救急車を呼ばなくては、それから父に連絡を。  妙に冷静になっている頭と、早鐘のように鳴りやまない鼓動と震える指で、初めての三桁の番号を押した。  すぐに向かうという通話越しのオペレーターの声に僅かに安堵し、父の携帯電話に連絡する。  運転中なのかすぐに繋がらなかったのでメールで簡潔に事の次第を記しておく。 「お母さん、お母さん!」  何度呼びかけても母は返答しなかった。  そろりと頭から肩、背中に足と身体に触れて、出血や骨折をしていないか確認する。  もちろん全くの素人判断なので、見える範囲ではあるが。  怪我はしていないように見えた。血も流れていない。  まだ、――温かい。
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