新米ニセモノ美容師

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 新米ニセモノ美容師

 どうやら相当に寝ぼけていたらしい。  ここ……、どこだっけ?  うっかり寝ちゃったな。  ぼうっとした思考の中で、右側面(みぎそくめん)に人の気配を感じる。  ああ、またつばさがこっそり布団に入り込んだのか。  つばさが小さい時は、暗闇が怖いから一緒に寝て、とよくとせがまれたものだ。  たださすがに来年からは中学生になるのだし、それとなく一人で寝るように諭しているが、油断すると僕の布団に時折、侵入してきていることがある。  今でこそ血がつながらない兄妹だと分かったからといって、別に変な気を起こすわけでもない。  ただ、時々兄と一緒に寝ている、とうっかり会話中に口を滑らせて、学校でいじめられないか心配になるのだ。  それとなく男女の区別を分からせないと、そう思いながらつい寝ぼけながらも癖で頭を撫でる。  いつものさらさらとした髪質と違うことに違和感を覚えて、一気に脳が覚醒した。 「……ぅわっ!」  そうだった。  ここは他所の家だ。  頭の大きさの違いを感じて隣を見ると、はだけた肩を(あらわ)にして朱葉サマが眠っている。  驚いた僕の声に気付いたのか、不機嫌そうに朱葉サマが眉根を寄せる。 「ぅう~ん。な~によぉ、も~」  飛び上がって起きた僕とは違い、モソモソと朱葉サマも起き上がる。  着崩れた寝間着から白い肌が覗く。眼のやり場に困り、僕は視線を反らした。
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