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すると、太い幹の陰から白い人影がさっと躍り出て、大輔に気づき動きを止めた。白いセーラー服を着た女子生徒だった。つややかな黒髪は肩をこえて、重力に従い真っすぐにのびている。
大輔が赴任する高校の生徒だろう。こんな朝早く何をしているのか。教師の顔を忘れず、理由をといただそうとしたが言葉がでない。
女子生徒はやや吊り上がった目で、大輔を真っすぐにみつめる。その目に射すくめられたように、身動きがとれなかった。
呆けたように立ちすくむ大輔から視線を外し、女子生徒は悠然と横を通り過ぎていく。
大輔は振り返り、公園の出口へ向かう揺れる黒髪をじっと見送った。
狐につままれたような出来事。朝もやの早朝に、幻でも見たのではないか。大輔はそう自分に言い聞かせ、緩慢な動きで一歩を踏み出した。
しかし、あの生徒は幻ではなく間違いなく実在した。大輔が受け持つ三年生のクラスの生徒、秋元桜子として。
*
桜子は優秀な生徒だったが、影が薄かった。その存在は春の霞のように教室にとけこんでいる。
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