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早朝の公園にいた理由を何度も問いただそうとした。しかし、新学期のクラス担任は雑務に追われ、一度も桜子と話す機会を持てなかった。
おまけに大輔は赴任してまもない。帰宅して持ち帰った書類を処理してから風呂に入ると、泥のように眠った。
その多忙な日常の隙間に不思議な夢を見るようになった。夢の中で大輔は時代がかった装束を身につけ、白拍子の舞を見物している。
片手には盃。ひとりではない。同じ装束の人々と酒を酌み交わし、舞台の上で繰り広げられる優美な踊りを鑑賞している。
そして、他のものの扇で隠された口元から、漏れ聞こえる白拍子への称賛に、聞き耳を立てていた。
『なんと美しい白拍子』
『踊りがことのほかうまい』
『九郎どのがうらやましい』
それらすべての賛美を、自分の事のように喜んでいる夢の中の大輔。
あの白拍子は……。
その日も提出書類に不備があり、生徒の保護者と連絡がとれたのは夜の九時。それから仕事を片付けていると、大輔は校舎に残る最後のひとりとなった。戸締りをし、外へ出るともう十時。
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