虚像の千本桜

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 あの夜から、大輔は人目も気にせず桜子を校内で探すようになった。自分が担当する日本史の授業中、職員室の窓辺から見えるグラウンドに散る体操服の中。  探しもとめているのは、自分だけではない。板書する背中にジワリとささる熱をおびた視線。廊下ですれ違いざま、たった一秒交わった狂おしい視線。  決して自分だけの思いすごしではない。大輔は夢の中の人物が誰だか、明確な確証を持った。九朗と呼ばれる武士(もののふ)、優美な白拍子。あれは、自分たちの前世であると。  時の流れを泳ぎきり、この現世で巡り合った。再びふたりきりで相まみえることを夢想する。  朧月夜の晩がまためぐってきた。  山桜はすっかり花を散らし、花びらの残骸が地面を白く輝かせていた。  その上に桜子は桜を見あげ、静かに立っていた。  大輔の気配に気づいたのか、声をかけぬともくるりと振り返った。その刹那、制服のスカートがふわりと広がる。その揺れがしずまぬ間に、大輔の胸に飛び込んできた。 「お会いしとうございました。源九朗義経さま」 「我もじゃ、静」
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