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朧月夜の曖昧な光に照らされるふたりの姿は、白い水干姿の白拍子と二藍の直垂姿の若武者へかわっていた。
源義経とその愛妾静御前。八百有余年前、吉野山での今生の別れ。その時ふたりは、来世の出会いを誓い合った。
この令和の世に運命的な再会をはたし、ふたりは涙にくれる。
「この吉野より移植された山桜の下での邂逅。なんという因果であろうか」
義経は両の手を静のあごにそわせ、その愛しい顔に月の光を当てる。
「はい、まことに」
静の右手が、義経の左手を慕わし気におおう。
「こうなれば、一時もおしい。この世でも我ら未来永劫、共にあると誓い合おうぞ」
「ええ、そのように」
小ぶりな唇からもれる吐息のような応答とともに、静は義経の唇へ誓いの刻印をおとす。右手の人差し指が、義経の左手の上をツツッとなぞり、薬指にはめられた銀の輪をカリッとひっかいた。
「では、奥様を殺してください」
快楽に沈みかけていた大輔の体は、無様なほどぎくりと硬直する。
「妻とはすぐに離婚する。何も殺さなくても……」
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